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<< 「土方のおやじ」(いのちのことば社)より抜粋
横 浜 上 陸


将校待遇で迎えられる!

イエスは言われた。「まことに、あなたがたに告げます。わたしのために、また福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子、畑を捨てた者で、 その百倍を受けない者はありません。今のこの時代には、家、兄弟、姉妹、母、子、畑を迫害の中で受け、後の世では永遠のいのちを受けます。 (マルコ福音書10章29-30節)

二人を乗せた船は、一路日本を目指して出港した。荒波を蹴散らして突き進む船の姿は、まるで彼の福音の戦士としての姿を象徴するかのようであった。彼は今、二十八年間住み慣れたアメリカを後にして、二人の愛児、親、兄弟、姉妹と別れ、霊的戦いの最前線に赴こうとしていた。それはまさに救いを勝ち取るための命がけの戦いであった。 彼は、甲板に出て、立ち向かう大波に向かって、大声で歌った。

さかまく波をものともせず かねさえとける夏の日に 故郷を後に海遠く 万里の怒涛隔てつつ まだ見ぬ国にうち渡り 世界の魂手にとらん 行け行け神の子、イエス様と

途中何度か激しい台風に遭遇した。しかし彼の福音への闘志は益々強くなり、熱い祈りを主にささげるのであった。 いよいよ、日本大陸が見えた。 夕暮れが迫ってくる。 房総沖を通る頃、夕陽に染まった富士の雄姿が見えた。 ああ、遂に日本に来たのだ。万感胸に迫るのを彼は覚えた。 彼らの乗った船が東京湾に入る頃には、すでに陽が沈み夜となっていた。 船はその晩は停泊し、彼らは夜が明けるのを待って下船をした。

彼は、早速、船から降ろされた荷物を税関の前に並べた。一万冊の日本語聖書と八トンの救援物資が山のように積まれた。 彼らは、ジープに乗せられて、税関へと向かった。先に下船していた日本労農党の大山郁夫夫妻は、長い時間をかけて厳重な荷物検査を受けていたので、当然我々も受けるであろうと覚悟していた。 ところが、税関のところまでくると銃を持って並んでいるMP(軍警察)が一斉に捧銃をするではないか。ジープは税関で止まることなく行き進み、MPはこのジープを直立不動のまま見送った。まさに将校級の待遇であった。 ジープは桜木町の町中を走った。立ち並ぶMP達は、ここでも彼らのジープに対して捧銃を行った。 GIは終始仰々しく、姿勢を崩さず、無言でハンドルを握っている。辺りには、自分が乗っているジープの他、車一台どこにも見当たらない。 彼はGIに聞いた。

「ミスターGI。あなたは特別の休みをもらって僕たちのために便宜をはかってくれているんですか。」 GIは彼に次の様に答えた。 "No, sir. This is my duty, sir."(これは上官の命令なんです。)

やがて日比谷公園のお堀まで来た。交差点では、白い手袋のMPが腕を縦横に振りながら交通整理をしていた。MPの勇ましくそして華麗な手さばきに見とれていた彼がふと気づくと、ジープはMPの交通整理に関係なく交差点を通り過ぎてしまった。さらに皇居前に差し掛かると、そこには大勢のMP達が立っているのが見えた。ここでもMR達は一斉に直立捧銃をしてジープを見送った。

二人を乗せたジープは、明治神宮にある進駐軍事務所の前に止まった。MP達は捧銃をして、彼らを向かえた。 GIは彼ら一行を、チャプレンのウイシュハートのところへと案内した。 「唯今、お連れして参りました。」 GIは恭しく敬礼し、彼らをチャプレンに紹介した。

彼はその時感極まり、チャプレンの前に泣き崩れた。 主が、絶対不可能といわれた日本宣教の道を開いてくださり、さらに日本では将校待遇を以って迎えてくださったことに彼はただ感謝の気持ちで一杯になったのである。 彼は、そこで泣けるだけ泣いた。 チャプレンは自分の引き出しからブラシを取り出し、静かに彼の作業着についたちりを払い落としてくれた。

さらに主が、彼に与えてくださった恵みはこれだけではなかった。 終戦直後の廃墟と化した東京において、彼が与えられた住居は元菊地寛の邸宅であった。 その屋敷の庭には、椎の大木を始めとして緑豊かな植物が一面に生い茂り、裏庭には大きな百日紅があって、そこから少し離れたところには茶室とその側に大きな池があった。またメイド達の住居は別棟となっており、二階建ての土蔵もあった。また屋敷には、玄関が三か四つほどあり、部屋数だけでも十四室もあるような大豪邸であった。

更に彼は、彼が乗ってきたジープも譲り受け、進駐軍のガソリンスタンドを自由に使うことを許された。その上電車も汽車も進駐軍専用車を利用することさえも出来たのである。 イエスは言われた。「まことに、あなたがたに告げます。わたしのために、また福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子、畑を捨てた者で、 その百倍を受けない者はありません。今のこの時代には、家、兄弟、姉妹、母、子、畑を迫害の中で受け、後の世では永遠のいのちを受けます。 (マルコ福音書10・29-30)

彼は、日本宣教のためにアイダホの義父の土地相続権を放棄した。義父母とも別れ、血のつながった兄弟姉妹達からは「お前が日本に行くなんて気違いだ。」と罵られた。また自分の母とも別れ、一切の財産を孤児院にささげた。 けれども、主は自分のすべてを捨てて命がけで福音を宣べ伝えようとした彼に、貧しい思いをさせることはなかった。主は聖書に書いてあるとおりの事を、彼に与えたのであった。

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